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大阪地方裁判所 昭和33年(タ)84号 判決 1963年4月13日

本籍 中華民国 住所 大阪市

原告 曾美恵(仮名)

本籍 原告に同じ 居所 神奈川県川崎入国者収容所内

曾天崇または金栄吉こと 被告 金深昌(仮名)

主文

一、原告と被告を離婚する。

二、原、被告間の未成年の長女子良(あるいは良子)、長男文利に対する監護人並びに観権者をいずれも原告と定める。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、もと日本人であつた原告は、台湾人である被告と昭和二四年六月二五日以前に婚姻し、昭和二五年一一月一日以降は原、被告ともに台湾人であるところ、この夫妻間において昭和二四年一月長女子良(あるいは良子)を、昭和二九年一月長男文利を各出産したという原告の主張事実は、いずれも当事者間に争いがないこと、及びその方式によつて真正に成立したものと認める甲第三号証並びに弁論の全趣旨により、いずれも真実であると認定できる。これに反する証拠はない。

二、従つて、本件離婚請求は、夫の本国法である中華民国の法律によるべきところ、同国の離婚法が原告主張のとおりであることは被告も争わないので、同国には実定法として原告主張どおり離婚法規が存するものと認定できる。これに反する証拠はない。

三、それで離婚原因について按ずるに、

(一)  その方式により真正に成立したものと認める甲第六号証及び被告本人の供述によれば、被告は、

1  昭和二七年三月三一日大阪地方裁判所で麻薬取締法違反罪により懲役一年に処せられ、同判決は昭和二八年七月一六日確定し、

2  昭和三一年七月一七日福岡地方裁判所で同罪により懲役一年六月に処せられ、この判決は昭和三二年四月七日確定し、

3  昭和三二年二月二一日大阪地方裁判所でまたもや同罪により懲役一年に処せられ、同判決は同年三月七日、確定したことがそれぞれ認定できる。これに反する証拠はない。

(二)  そして、右各懲役の原因たる麻薬取締法違反罪が、中華民国民法第一〇五二条第一〇号後段に規定する「不名誉の罪」に該当し、その懲役刑が離婚原因をなすことは言うまでもない。

四、従つて原告は、前記「不名誉の罪を犯して懲役に処せられた」被告に対し前掲第一〇五二条により離婚を請求できるのであるが、

(一)  しかし同国民法第一〇五四条には「右の懲役に処せられたことを知悉して後一年を経過したときは、もはや離婚を請求できない。」旨を規定しているところ、

(二)  本訴提起が昭和三三年九月三日であることは記録によつて明らかであり、また、原告の供述によれば、原告は本訴提起より一年以上も以前の福岡地方裁判所言渡しの判決が確定した昭和三二年四月七日の直後にはこの離婚原因たる懲役刑を知悉したものと認定できるから、

原告は、本訴においては、もはやこの懲役刑をもつて離婚原因とすることは許されないのではないか、との疑問を生ずる。

五、けれども、原告は、福岡地方裁判所言渡しの前示懲役判決が確定した日から一年以内である昭和三三年三月二〇日大阪家庭裁判所堺支部に対し、本訴と同一離婚原因を主張して被告との離婚を求める調停を申立て、同調停が同年七月二一日不成立に終つたため、本訴を提起するに至つたものであること、当裁判所が成立を認める甲第一ないし第六号証により容易に認定できる。

それで、右「離婚調停の申立」が中華民国民法第一〇五二条の「法院に対する離婚の請求」に該当するか否かを検討するに、家庭裁判所もまた一種の「法院」であること及び日本では家事事件につきすべて調停前置主義を採用しているところ、調停手続中に一年以上を経過することもすくないこと等から考えると、調停不成立に引続いて離婚の訴が提起された場合においては、その離婚調停の申立をもつて、前提「法院に対する離婚の請求」に該当すると解するのが相当である。これを本件について見れば、原告は前示認定のとおり先ず離婚調停を申立て、それが不成立に終つたため引続き本訴を提起したのであるから、同調停申立が「法院に対する離婚の請求」に当ることは言うまでもない。

六、そうすると、「被告が不名誉の罪を犯して懲役に処せられた」ことその他を事由として離婚を求める原告の本訴請求は、じ余の判断をするまでもなく、これを正当とせねばならぬ。

また、前示認定の各事実に原告本人の供述によつて認める原告が現に二児と同居していない事実等を綜合すれば、未成年の二児に対する監護については、中華民国民法第一〇五六条但書の規定により、原告をもつて監護人並びに親権者と定めるのを相当と考える。

七、よつて、じ余の判断をするまでもなく原告の離婚請求を正当として認容し、二児に対する保護措置を定めるべく、訴訟費用は敗訴の被告に負担させ、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義雄)

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